遠藤美香/静岡市美術館~至近距離からの鑑賞のススメ~

静岡市美術館では、浜松市在住の版画家遠藤美香さんの版画8点を展示している。いずれも幅、高さともに1mを超すモノトーンの大作で、版木の隅々までびっしりと彫刻刀を刻み入れた証が、紙に繊細に写しとられている。作中の女性像は作者自身というが、固有のイメージを排するために、あえて顔を隠している。咲き乱れるサツキやスイセンだけでなく、衣服や布団のテキスタイルのような意匠に、目を奪われる。至近距離から眺めると仕事の細かさに感嘆する。さらに、距離をとって鑑賞すると彫りの密度の違いが陰影をもたらしていて、厚みや遠近感、ちょっとしたシワが浮かび上がっていることに驚く。とりわけ、床に何枚も敷かれた新聞紙を題材にした「新聞」は、文字の大きさまで描き分けられていて圧巻だ。

作品は、静岡市美術館の多目的室に展示されている。

同館担当学芸員の以倉新さんによると、遠藤さんはコンセプチュアルな作品づくりよりも彫る行為そのものに傾注することで創作意欲を持続しているという。まず複数枚の写真を撮影し、構図を慎重に定めたあと、版木にトレースして、掘り進めていく。ひとつの作品を完成させるのに2~3ヶ月、あるいは半年かかるそうだ。遠藤さんも池島さんも、「彫る」営為に真摯に向きあうことで作品に圧倒的な力をもたらしている。そのエネルギーが溢れ出ているからこそ、私達鑑賞する人間の網膜が刺激されるのだと思う。

「新聞」(部分)。文字の大きさに合わせて削り方を変えている

「蒲団」(部分)。ふわっとしたふとんの厚みや衣服のよれた感じまで表現されている

「さつき」(部分)。登場する女性は半身を隠し、影になっている

「水仙」(部分)。重なり合っている花や葉が丹念に描写されている

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