レビュー2回目は、JR東静岡駅の北口東側にできた「東静岡アート&スポーツ/ヒロバ」に展示されている作品を紹介します。今年新しくオープンした公共空間をいかに活用するのか、3作家のアイデアが光っています。

千葉広一「東静岡駅東駅」〜懐かしい憩いの場の創出〜

木陰にひっそりとたたずむ古い車掌車の中に靴を脱いで入ると、作家の千葉広一さんがこれまでの展示会などで撮りためた無数のチェキや写真が飾られた待合室が現れる。と共に、高さ数センチのコロボックル的な人物の切り抜きイラストもいたるところに配置されていた。一緒に貼ってある短い文章は、かつて待合室にあったような(今でもあるのだろうか?)書き置きノートのようにむくもりが感じられるメッセージが綴られている(実際、書き置きノートも置いてある)。千葉さんは「懐かしさを感じる場を演出しようと思った。憩いの場として活用してほしい」と、作品が実用空間として使われることを期待している。また、車両の横には、幅約2・4メートルのシートが何枚もロープに吊るされ、祝祭的なイベント空間が出現している。プリントされているイラストも千葉さんが描いた作品だ。さらに夕方になると電球がシートの周囲に灯り、幻想性が増す。「東静岡駅東駅」は、無味乾燥になりがちな新しい公共空間に、深みと彩りを与えてくれている。

車掌車両は千葉広一さんが個人所有する1952年製の国鉄ヨ5000形。

中央のケースや壁一面に写真や絵が飾られている。室内にはダルマストーブもあって暖を取れる。

取材日は台風21号が通過した翌日で風も強くシートも勢いよくはためいていた。

岩野勝人「コンテナ・アートスペース」〜場の記憶と想像力を喚起〜

「東静岡アート&スポーツ/ヒロバ」がある場所は、もともと国鉄、JRの車両基地だった。中勘助文学記念館や村上開明堂七間町第2ビルの展示作品と同じく、場所の記憶を蘇らせる意志がこの会場の展示作品には込められている。東静岡駅東駅の車掌車両もそうだし、岩野勝人さんの「コンテナ・アートスペース」のコンテナもそうだ。ワークショップ会場にもなっている赤茶色のコンテナ2基(1基はワークショップで1面がペインティングされている)は、背景の東海道線の景色に溶け込み、場にしっくりと馴染んでいる。また横には、コンテナを改造した際に生じた素材を使った高さ5メートルのキリンの像がすっくと立っていた。岩野さんはヒロバを「サバンナ」に見立てているが、周辺の高層ビルとの親和性も高い。高層ビルが高木のようにも見えてくる。コンテナとキリンは、場の記憶と異世界への想像力を来場者に喚起させるアイテムとして機能しているようだ。

キリンの像は、2枚の板を斜めに合わせることで、そびえ立つ感じをより醸し出している。

今年初夏のワークショップでペイントされたコンテナの壁。「ART BASE」と記されている。

過去のめぐるりアートに出品された岩野さんの代表作「メンタルチェア」も会場には設置されている。

小笠原圭吾「pop dot project」〜リンゴ的SNS〜

会期中、アーティストの小笠原圭吾さんが用意した、リンゴを模した陶製のオブジェが岩野勝人さんのペイントされたコンテナ内にぎっしり詰まっている。リンゴは小笠原さんが2011年から続けているプロジェクトのメインツールで、めぐるりアートに向けて新たに500個を用意した。来場者は赤リンゴと青リンゴの2種類のどちらかを譲り受け、辿り着いた自宅や旅先、あるいはめるぐりアートの他会場で、SNS(インスタグラム、ツイッター、フェイスブックなど)に「#リンゴドットプロジェクト」と記し、リンゴと風景の写真を投稿する。それを小笠原さんが紹介し、リンゴが世界各地に拡散する様子を参加者であるわれわれもうかがい知ることができるという仕組みだ。コンテナ内には、リンゴがたどり着いた国々に色が塗られた地球儀も展示されいている。リンゴという誰もが知っている果物を媒介に世界をつなぐという試みは、小笠原さんがフリーター時代に社会とのつながりを希求していたことから始まっているそうだ。リンゴは普遍性の象徴として機能している。またオブジェは、果実のみずみずしさを大切に表現しているように感じる。デジタルを活用しつつ、アナログのぬくもりを大事にしたプロジェクトだ。

屋外には、皮を剥かれたリンゴのオブジェがあった。一緒に展示されている赤い皮(雨天時は撤去されていることも)には、海外から届いたSNSのメッセージがプリントされている。

地球儀とリンゴ。地球儀はリンゴが辿り着いた国々に色が塗られていた。

最初500個あったリンゴも次々と旅立っていった。大小2種類あり、小さいリンゴはめぐるりアートの他会場に持っていく人向け。どちらかというと赤リンゴが人気だという。