「今も残る情景が詠まれる一方で、失われてしまった文化も歌われています」

昭和11年に静岡県教育会によって発刊された唱歌集を音源化した『静岡縣郷土唱歌』(T2オーディオ制作)が今年8月に発売され、話題を集めている。「三保」「濱名湖」「山田長政」など、昔懐かしい全28曲の唱歌を、現代風にアレンジした音楽家の丸山研二郎さんに、創作秘話をうかがった。

 

ーそもそもどういった経緯で制作することになったんでしょうか?

丸山 2016年の年末に、僕たちのファーストアルバム『空の灯』でもお世話になったレコーディングスタジオでCD、DVDの制作、録音を手がけているT2オーディオ(静岡市清水区)さんから企画を持ちかけられました。代表の坪井義幸さんが、あべの古書店(同市駿河葵区)で唱歌集の楽譜を手に入れて、ぜひ音源化したいから手伝ってほしいと。少し迷ったのですが、坪井さんが「僕の人生をかける」というほど熱心に誘ってくれたので引き受けたんです。

ー 2枚組のアルバムに、名所、史跡、偉人をテーマにした28曲が収録されています。この楽譜集自体、希少なんですよね。

丸山 第二次世界大戦前の唱歌集は、全国的にも珍しいみたいです。市内の図書館にも所蔵されているんですけど、持ち出し禁止です。全曲を収録したレコードなどは、探したもののみつかりませんでした。

ー 作曲の過程で楽譜から受けた印象はありますか?

丸山 作詞は一般公募しているんですよね。情景描写に特化していて、童謡みたいに詩情があまり入っていません。子供に土地の姿をそのまま教えようとしている歌詞が多いですね。誰が曲を作ったのかはわかりません。ただ、複数のプロだとは思います。似たフレーズが出てくる曲は、同じ人が作ったんじゃないかなと推測しています。(笑)

あべの古書店でT2オーディオの坪井さんが入手した当時の楽譜集

ー アルバム全体から遠足気分のようなワクワク感と心地よい地元愛が伝わって来ます。「蜜柑採」のハサミの音や「富士登山」の和太鼓が印象的でした。どのようなアレンジを心がけましたか?

丸山 歌詞から情景を想像しながら肉付けしていきました。程よいノスタルジーを出しつつ古臭くならないように、バランスをとりながらアレンジしました。楽譜はメロディーラインだけなんです。だから、コードや前奏、間奏、楽器の種類、リズムを自分で考えました。打ち込みを使わずにアコースティック楽器中心にして、ピアノや和太鼓、篠笛を入れました。「江川担庵」「千本松原」に取り入れたバイオリンの叙情的なアレンジが個人的には気に入っています。

バンド名と同タイトルの1stアルバム『空の灯』収録曲を演奏した9月17日のライブ(静岡市民文化会館)

 

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