「ときたまそこにいて大事な雫を掬えることがある。それが記録なのかなと」

東日本大震災の津波に一切を流された岩手県陸前高田市の店舗兼自宅跡にプレハブ小屋を建て、「佐藤たね屋」を2011年8月に再開した佐藤貞一さん。その佐藤さんを3年間にわたって追ったドキュメンタリー映画「息の跡」が、9月29日から静岡シネ・ギャラリーで上映される。監督は、静岡市出身の映像作家小森はるか(28)。東京藝大大学院の修了制作作品でもあるこの映画は、言葉で語られていること以上のものが含まれた、記録と暮らしをめぐる瑞々しさあふれる映像作品だ。

ーどういった経緯で「息の跡」の撮影は始まったんでしょうか?

小森 大学の同級生で友人の瀬尾夏美(画家・作家、ヨコハマトリエンナーレ2017にも参加)と一緒に、震災発生の3週間後から被災地にボランティアとして入って、青森から福島までの沿岸部を行き来しながら、そこで出会った方たちとの会話や風景の記録撮影を始めました。2012年春に、瀬尾と2人で岩手県陸前高田市の隣町の住田町に家を借り、市内の蕎麦店でアルバイトをしながら、休みの日を使って撮影をするようになりました。その過程で佐藤さんとも知り合いました。

物語の舞台になった陸前高田市の佐藤たね屋の外観 (C) 2016 KASAMA FILM+KOMORI HARUKA(以下の写真も同様)

 

ー 気仙川の河口近く、国道340号沿いに建っていた「佐藤たね店」を最初に訪れたのはいつ頃ですか?

小森 引っ越してから間も無く、英語で手記を書いている人がいると、地元の方に教えてもらって、佐藤さんのお店を初めて訪ねました。英文の手記や、自力で掘った井戸、瓦礫でつくった苗用のカート、壁に描いたちょっと変わった顔の絵など、次々と佐藤さんから説明を受け、その日のうちに引き込まれました。それから何度も通って親しくなり、他の撮影と同時並行で佐藤さんを被写体として追い続けました。主な撮影期間は、2013年1月から2015年の3月までです。

ー 佐藤さんは、種苗店を経営するかたわら、震災手記「The Seed of Hope in the Heart」を英語や中国語、スペイン語でまとめ、朗読しています。佐藤さんという記録者を記録した小森さんから見て、佐藤さんはどんな方ですか?

小森 佐藤さんは、記録を残したいという思いを強く持っていらっしゃる方です。「生き残ってしまった」と思わせてしまうくらいの大きな喪失の中で、それでも希望を持つための術として、英語で書き残すという表現が生まれたのだと思います。一方の私は、そこまでの強い衝動にかられて、表現をしたことはありませんでした。佐藤さんの方がよっぽど、表現することや、伝えることと切実に向き合っている芸術家のようだと思いました。だからこそ私は、佐藤さんを撮りたいと強く思ったんだと思います。

「佐藤たね屋」の店頭に座り作業する佐藤さん。店頭で震災手記も販売していた

 

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