− SPACの『アンティゴネ』の原型は、ク・ナウカ時代の2004年に宮城さんがギリシャ・デルフィの古代競技場などで上演されたものです。同作のテーマは権力、二項対立に対する意義申し立てだと宮城さんはこれまでに説明しています。演出を全面的に改めたSPAC版『アンティゴネ』は、今年のゴールデンウィークの「ふじのくに⇄せかい演劇祭」でお披露目されました。舞台会場の駿府城公園も、徳川家康が大御所として約10年間日本の政治を支配した、かつての権力の中心地です。ただ、天守閣のない現在の駿府城址は、法王庁と違って開放的な印象を受けます。ヨーロッパと日本の権力に対する眼差しの違いでしょうか。

宮城 日本人には「いかめしさを見せびらかすのは格好良くない」という趣味があります。権力を誇示するのを成金趣味として忌避するというか。安土桃山時代は城郭の豪華さなどを競い合ったけれど、江戸幕府の三代将軍徳川家光の時代には薄れてしまいます。奈良時代につくられた寺社仏閣もいかめしいですが、あれは大陸文化の影響がある。京都の銀閣寺なんて足利将軍の別荘だとは思えないほど地味でしょ。だから駿府城の天守閣が江戸時代に再建されなかった理由のひとつに、そういった日本人の権威に対する感覚があったのではないかと僕は思ってるんです。西洋のように、何か形がないと尊敬されない文化ではない。一方、アヴィニョンの法王庁は、高さ30メートルの壁で囲まれています。要塞ですから、その威圧感は半端ではない。アヴィニョンの人に怒られちゃうかもしれないけれど、権力に抑圧された浮かばれない数多の霊が閉じ込められている感じすらします。だからこそ、「物申したい」という気持ちが、自分の中に湧き起こってきたんじゃないかな、と。

− どのような斬新な演出をアヴィニョンでは考えていますか?

宮城 法王庁中庭の舞台は石切場より空間の扱いが難しいなと感じました。これまでに何度か上演作品をその中庭で観たことがあるのですが、うまく空間を使えている作品が少ない印象を受けていたんですね。というのも中庭は、舞台面積が通常の2倍あります。まず、そこをどう活かそうか悩んだんです。無理に空間を埋めようとすると、逆にスカスカに見えてしまう。だから、巨大な水面を舞台に作ろうとスタッフと相談しました。そこは、現世と冥界をつなぐ、三途の川であり、ギリシア神話におけるアケロンの川です。冥界への入り口ですね。それを思いついたとき、関門をひとつ抜けたと思った。それと周囲を取り囲む高さ30メートルの壁。2000席ある客席は、急勾配で後方の客席からだと俳優の頭を遠くに見下ろす感じになってしまう。なので、登場人物の影を背面の壁に大きく映すことを試みます。先日も、グランシップの外壁を使って、実験しました。

高さ30メートルの法王庁の壁を模して、グランシップの西側壁面で影の映り具合を実験するSPACのスタッフ(6月19日、静岡市駿河区)

 

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