建築家杉本博司が設計した石棺を喚起させる坪庭を眺めながら3、4番目の部屋にたどり着くと、一転して、西洋的現実世界を写した作品群「The Politics of Flowers」に出合う。パレスチナ(キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の聖地)では、19世紀にエルサレムの巡礼者のための土産として押し花帳が売られていていた。2003年ごろ、彼女はその押し花帳を見つけてコレクションし、貼ってある花をモノクロスキャンにして提示した。歳月を経てはがれて失くなった花弁の跡は、現在まで続く紛争で、家族や恋人、あるいは自らの身体の一部(あるいは全て)を失った犠牲者のイメージに直結する。また、植物の繊維1本1本が見えるほどに拡大スキャンした作品は、「見る」ことをギフトとして与えられた彼女が、世界が存在すること自体の貴さを、再確認しているようだ。

「The Politics of Flowers」の作品群。十字と押花が重なる作品も投影されている。

同じく「The Politics of Flowers」より。粗い目の紙にスキャンしている。モノクロゆえ輪郭やディテイルに逆に引き込まれる。

 

前述のウォレス・スティーヴンスの詩の最後は、自然に対する宗教的な祈りの言葉で結ばれている。

Oh! rabbi, rabbi, fend my soul for me
And true savant of this dark nature be.

ラビよ、おお! ラビよ、わが魂を守りたまえ、
この暗い本然を まことの知者とあらしめたまえ。

光、あるいは写真が二項対立を解消してくれるという祈りが、この展覧会を包んでいる。彼女にとって光、あるいは写真は救いだ。

(文責/小林稔和)

 

【テリ・ワイフェンバック】
1957年ニューヨーク市生まれ。メリーランド大学でファインアートを学び、1970年代から絵画のみならず、写真制作にも取り組む。1997年の「In Your Dreams」をはじめ、計15冊の写真集は、国際的に高い評価を受ける。美術館での個展は国内外で今回が初。国内では2014年に写真家川内倫子と共同展を開いている。

テリ・ワイフェンバック「The May Sun」展
開催期間 〜8月29日(火)
主催 IZU PHOTO MUSEUM
開館時間 10時〜18時(最終入館時間17時半)、休館日:水曜日
入館料 大人800円、高・大学生400円・中学生以下無料

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