展覧会のメインのイメージカットにもなっている写真は、白とピンクのバラが咲き誇る生垣のラインの上に、淡い層雲が「たなびいている」というか、「浮かんでいる」、というか、ちょうど両者の表現の中間程度の高度と厚みをなしている。雲をモチーフにした作品は多く、最後の部屋に飾られているインスタレーションも、富士山の稜線を滑る雲の動きを撮影したものだ。同館で昨年個展を開いたフィオナ・タンも、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を引用しつつ、富士山麓を主体と客体を逆転させるという意味も含めて、「雲が生まれる場所」と述べていた。

展覧会のメインイメージカットの雲と薔薇の作品。「The May Sun」より。© Terri Weifenbach

順番が前後するが、1番目の部屋に飾られている1997年に出版された写真集「In Your Dreams」の掲載作品にも、作者の想定する世界と個の関係性が如実に表れている。少しマットな質感の作品群は、鑑賞者に彼女自身のスコープを共有させるよりも、鑑賞者に鑑賞者自身の過去を喚起させる作用がある。彼女は写真を、個の表出というより世界からの贈り物として捉えている。明るい色彩の「In Your Dreams」が現世とすると、一方で陰影の濃い「The May Sun」の作品群は、異界を感じさせる。そういえば、フィオナ・タンの個展のテーマのひとつも生/死だった。先ほどの手法の話と絡むが、西洋のアーティストにとって、オリエンタルな世界のイコンである富士山には、光と陰、生と死、過去と現在の端境を融解させる強い磁場が働くのかもしれない。

1997年に出版された「In Your Dreams」の作品群。少しマットだが、明るくて優しい色合いの作品が多い。

 

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